急性腎障害(AKI=Acute Kidney Injury)

詳しくは、AKI(急性腎障害)診療ガイドライン2016を参照。

定義

  • 血清クレアチニン濃度が48時間以内に0.3mg/dL変化
  • 血清クレアチニンの基礎値から7日以内に1.5倍上昇
  • 尿量0.5ml/kg/h以下が6時間以上持続

以上3つの内1つを満たせばAKIと診断されます。

ステージ分類

血清クレアチニン基準 尿量基準
ステージ1 血清クレアチニンが0.3mg/dL以上変化or
血清クレアチニンが1.5~1.9倍上昇
0.5mL/kg/h未満6時間以上
ステージ2 血清クレアチニンが2.0~2.9倍上昇 0.5mL/kg/h未満12時間以上
ステージ3 血清クレアチニンが3.0倍上昇or
血清クレアチニンが4.0mg/dLまでの上昇or
腎代替療法開始
0.3mL/kg/h未満24時間以上or
12時間以上の無尿

※血清クレアチニン値と尿量による重症度分類では重症度の高い方を採用します。

急性腎障害では、薬物中毒、腎臓への血流減少、腎臓感染などが原因で、急速に腎機能が低下します。

障害部位により、腎前性、腎性、腎後性の3種に分類できます。

腎前性

腎前性腎障害は腎臓に入る前の障害による腎血流の低下(心不全の前負荷と逆で血流が不足してろ過機能が低下する)と、それに伴って腎臓への酸素供給が阻害されることによる腎機能の障害です。

腎臓に入る前の障害とは具体的には、脱水、心不全、出血、低血圧などが該当します。つまり心不全であることは腎不全を引き起こす。逆に、腎不全も体液貯留や高血圧、エリスロポエチン不足で貧血となることで心臓に負担をかけることで心不全を引き起こす。

尿中Naはほぼ再吸収されるため、尿中Na濃度が低下する(尿中カリウムも一般的には再吸収されて低下する)こと、乏尿、腎臓自体が障害されていないのでBUNやクレアチニンの値は問題ない。

これらが原因で腎血流量が少なくなると、尿量が減り、尿毒症が引き起こされる可能性が高くなります。また高血圧のリスク、水の排泄ができなくて浮腫にもなります。

体液が少ないので圧力を上げるために腎傍糸球体装置からレニンが分泌され、レニンはアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシン1に変換して、ACEでアンジオテンシン2に変換されて血管平滑筋のAT1受容体に結合して血管収縮(直接and血管内皮細胞のエンドセリン放出促進のダブル効果でPLC↑→Ca2+放出→血管収縮)、副腎のAT1受容体からはアルドステロンが分泌→Naを再吸収して、Kを分泌し、血圧をあげて腎機能を低下させる。

治療法としては、

  • 補液療法・・・ 脱水が原因で腎前性腎不全が発生した場合、水分や電解質を補給するために、経口または静脈による補液療法が行われます。これにより、血液容量が増加し、腎臓への血流が改善します。
  • 強心薬・・・心臓のポンピング機能を向上させるために強心薬(ドパミン、ドブタミン)が使用されます。これにより、腎臓への血流が増加し、腎機能が改善する可能性があります。
  • 利尿薬・・・浮腫の改善

腎前性腎障害の代表的な疾患とその治療法

  • 心疾患(心不全など)→利尿剤、強心薬
  • 体液量減少(脱水など)→補水液
  • 急性尿細管壊死(虚血性ATN)・・・重度の低血圧、ショック、オペ後、敗血症(体内のどこかでの感染が血流に細菌、ウイルス、真菌、または他の微生物が入り込むことで起こり、全身に炎症反応)→抗菌剤、補水液、昇圧薬(ノルアドレナリン)

腎性

腎性腎障害は腎臓の組織へのダメージにより起こります。

炎症・免疫反応によって障害されるため、好酸球↑、タンパク尿、尿潜血、GFR↓、乏尿、血清BUN↑、Cre↑等が診断基準の一つ

腎臓の糸球体、間質(主に尿細管の周りに存在する結合組織で栄養を助ける。糸球体の間隙はメサンギウム)、尿細管のどこが障害されるかで病名が異なります。

腎性腎障害の代表的な疾患とその治療法

  • 急性糸球体腎炎(AGN)・・・糸球体が急速に炎症を引き起こす状態。原因の多くは免疫系の疾患。
    • 感染後・・・溶連菌感染、特にA型β溶血性連鎖球菌溶連菌の一種であるA群β溶連菌感染は、急性糸球体腎炎の原因の一つ。特に小児において一般的。A群β溶連菌による喉の感染(扁桃腺炎)や皮膚感染(丹毒)の後、免疫系の反応によって腎臓に障害が生じ、急性糸球体腎炎を発症。治療は抗生剤。
    • 免疫疾患・・・
      • ループス腎炎・・・全身エリテマトーデス(SLE)による
      • IgA腎症・・・風邪等を機にIgAが糸球体のメサンギウムに沈着することで起き、蛋白尿・血尿が見られる。細かい詳細は「IgA腎症診療指針」や「IgA腎症診療ガイドライン」で確認する。治療としてはRA系阻害薬、副腎皮質ステロイド(メチルプレドニゾロン低用量0.4mg/kg/日 24~32mg/日)が末期腎不全への進展抑制、腎機能障害の進行抑制ならびに尿蛋白減少効果を示すため最も推奨される。ついで免疫抑制薬、口蓋扁桃摘出術(+ステロイドパルス療法)、n-3系脂肪酸(魚油)、抗血小板薬、SGLT2阻害薬などが選択される。
      • 関節リウマチ・・・リウマトイド因子とIgGの免疫複合体がメサンギウムに沈着して炎症や組織損傷を引き起こす。
  • 急性間質性腎炎(AIN)・・・腎臓の間質と尿細管が急速に炎症を起こす状態
    • 薬剤性(ペニシリン、サルファ剤、NSAIDs、PPI、抗ヘルペス剤等)。
      • PPIはAINの原因薬剤として有名であるが、CKDに対しても長期的なPPIがリソソームのタンパク質の恒常性を阻害し内皮細胞の酸化ストレスを増加させる可能性や、PPIによって引き起こされる低マグネシウム血症の関与が示唆されている。後者はPPIが低マグネシウム血症のリスク因子であり、低マグネシウム血症がCKD発症のリスクとなることで説明される。
      • アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルは腎排泄型薬物であるため、CKD患者への投与の際は、排泄遅延による血中濃度上昇が認められることから、投与量を減量する。
      • NSAIDsはeGFR<30mL/分/1.73㎡の症例及びRA系阻害薬、利尿薬、リチウム製剤使用中には投与を避け、eGFR<60mL/分/1.73㎡の症例では継続的な投与を避ける
    • 感染症・・・腎盂腎炎(9割は大腸菌によって引き起こされる)
    • 免疫疾患・・・SLE
  • 急性尿細管壊死(毒性ATN)・・・特定の薬物等により腎臓の尿細管が壊死し、その結果、腎機能が急速に低下する状態。血流の低下により引き起こされるのは腎前性の虚血性ATN
    • 薬剤性(NSAIDs、アミノグリコシド、バンコマイシン、重金属、抗がん剤、造影剤等)
    • 横紋筋融解症、溶血(ミオグロビンやヘモグロビンの腎臓への沈着)

腎後性

腎後性腎障害は尿の排出の障害により起こります(後負荷=腎臓から出ていくところが閉塞=圧負荷)。

水腎症(hydronephrosis)は、尿の排泄の障害によって一時的または持続的に腎盂が拡張し、腎臓の構造が損なわれる状態を指します。

水腎症の診断には超音波検査、CTスキャン、MRI、排尿時腎盂造影(IVP)などが用いられます。

腎後性腎障害の代表的な疾患とその治療法

  • 尿路結石・・・水分摂取、結石排出薬、衝撃波結石破砕(ESWL)、開腹手術
  • 前立腺肥大・・・α遮断薬
  • 腫瘍性尿路閉塞・・・腫瘍や瘢痕組織が尿路を塞ぐ。尿カテ
  • 神経因性膀胱・・・脳血管障害、パーキンソン(コリン作動性神経が亢進し膀胱が過敏になり頻尿、尿意切迫、尿失禁、残尿感と排尿困難などのOAB症状)

慢性腎臓病(CKD=Chronic Kidney Disease)

定義

  • 尿異常、画像診断、血液検査、病理診断で腎障害の存在が明らか、特に0.15g/gCr以上の蛋白尿(30mg/gCr以上のアルブミン尿)の存在が重要
  • GFR<60mL/分/1.73㎡

以上2つの内のいずれか、または両方が3ヵ月を超えて持続すること。

ステージ分類

原疾患 蛋白尿区分 A1 A2 A3
糖尿病性腎臓病 尿アルブミン定量
(mg/日)
尿アルブミン/Cr比
(mg/gCr)
正常 微量アルブミン尿 顕性アルブミン尿
30未満 30~299 300以上
高血圧性腎硬化症
腎炎
多発性嚢胞腎
移植腎
不明
その他
尿蛋白定量
(g/日)
尿蛋白/Cr比
(g/gCr)
正常 軽度蛋白尿 高度蛋白尿
0.15未満 0.15~0.49 0.5以上
GFR区分
(mL/分/1.73㎡)
G1 正常または高値 ≧90
G2 正常または軽度低下 60~89
G3a 軽度~中等度低下 45~59
G3b 中等度~高度低下 30~44
G4 高度低下 15~29
G5 高度低下~末期腎不全 <15

死亡、末期腎不全、CVD死亡発症のリスクを緑のステージを基準に、黄、オレンジ、赤の順にステージが上昇する。(CKDガイドラインより)

  • CCr、eGFRの計算方法
  • eGFR(mL/分/1.73㎡)重症度別症状
    • G1:≧90:自覚症状なし
    • G2:60-89:自覚症状なし、尿たんぱく、血尿
    • G3:30-59:夜間頻尿、血圧上昇、貧血、電解質異常(代謝性アシドーシス、低カルシウム結晶、高リン血症、高カリウム血症
    • G4:15-29:浮腫、尿毒症(食欲不振、悪心、嘔吐、掻痒感)
    • G5:15以下:全身浮腫、不整脈、尿毒症(痙攣、意識障害)
  • 日本の保険診療では、アルブミン尿の定量測定は、糖尿病または糖尿病性早期腎症であって微量アルブミン尿を疑う患者に対し、3か月に1回に限り認められている。顕性アルブミン尿を伴う場合は保険適用外。
  • 糖尿病において、尿定性で1+以上の明らかな尿蛋白を認める場合は尿アルブミン測定は保険で認められていないため、治療効果を評価するために定量検査を行う場合は尿蛋白定量を検討する。
  • 尿中アルブミンと尿中Cr濃度の測定を行い、尿中アルブミン/Cr比(g/gCr)を算出する。あるいは、24時間蓄尿を行い、1日当たりのアルブミンの尿中排泄量を定量する(1日の尿中Cr量を1とした場合、尿中アルブミン/Cr比と等しくなる)。
  • 血尿を伴う場合(特に赤血球の大小不同や小さい赤血球が不均一にみられる場合等)は糸球体(尿細管ではなく)に原因がある可能性があるため、腎生検を含めた検査を検討する。血尿とは尿に赤血球が混在した状態のこと。
  • CKD重症度分類ヒートマップが黄色では6-12か月に1回以上、オレンジでは3-6か月に1回以上、赤では少なくとも3か月に1回以上定期的に蛋白尿・アルブミン尿の評価を行う。
  • 蛋白尿・アルブミン尿の評価方法として、試験紙法、尿蛋白定量、尿中アルブミン定量がある。
    • 試験紙法・・・最も簡便で低侵襲な反面、試薬により数値に差が出ることや濃縮尿や希釈尿の影響を強く受けて過小評価もしくは過大評価となる可能性がある。日本においては尿蛋白(1+)では30mg/dL、尿蛋白(2+)では100㎎/dLに統一されている。
    • 尿蛋白定量・・・尿蛋白量が0.05g/gCr未満といった尿蛋白レベルが低い場合(正常~軽度)には尿中アルブミン定量に劣るが、高度蛋白尿の場合は互いに相関する。
    • 尿中アルブミン定量・・・尿蛋白レベルが低い場合に尿蛋白定量よりも正確なので、尿蛋白が±や-の糖尿病患者で保険適用になっている(-の約10%、±の約60%が微量アルブミン尿(A2)相当以上の蛋白尿であったとされているので±はA2と同等と考えてよい。ただし生活習慣病を合併していない40歳未満の若年者では±を-と同等に取り扱ってよい)。国際標準。
  • 専門医療機関紹介基準
    • G1、G2:血尿あり(A2,A3)、血尿無し(A3)
    • G3a:40歳以上(A2,A3)、40歳未満
    • G3b~G5:全て
    • eGFR低下が3か月以内に30%以上であった場合
  • 尿蛋白漏出の機序として上皮細胞足突起表面に存在する陰性電荷の減少により陰性電荷をもつアルブミンが係蹄壁を透過しやすくなることが知られている。

慢性腎臓病(CKD)の原因疾患

  • 糖尿病性腎症(43.8%)・・・糖化終産物(AGEs)は、炎症反応の誘導や、活性酸素種の生成を促進する可能性があり、これが結果として腎細胞の損傷や、腎糸球体のスカラーゼ(硬化)を引き起こす可能性があります。
  • 慢性糸球体腎炎(18.8%)・・・糸球体の慢性的炎症でIgA腎症が最も頻度が高い。血尿、蛋白尿、、風を機にIgaが糸球体のメサンギウムに沈着、治療はステロイド。
  • (良性)腎硬化症(13.0%)・・・長期間の高血圧、糖尿病、加齢などにより腎血管の壁が硬化し、狭窄(縮小)し、最終的には閉塞することで、腎実質の虚血を引き起こします。臨床的には血尿を認めず尿蛋白が高度ではない。
  • 多発性嚢胞腎(PKD)・・・尿細管や尿細管の周りの間質に複数の嚢胞が進行性に発生・増大し、高血圧や肝嚢胞、脳動脈瘤などを合併する。加齢とともに進行性に腎機能が低下する。サムスカの腎機能低下抑制効果が示されているため、TKV750ml以上かつ年間増大率5%以上、かつeGFR>15mL/分/1.73㎡であればサムスカ治療をが推奨される。
  • 薬剤性腎障害・・・慢性の場合鎮痛剤、リチウム、シスプラチン、シクロスポリン
  • ANCA関連血管炎(ANCA-associated vasculitis、AAV)・・・ANCAは抗好中球細胞質抗体の略で、好中球細胞質に対する抗体を持つ疾患の総称。顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に分類。全身性の小血管炎であり、血管の壁が炎症し、それによって組織や器官への血流が減少または遮断される状態。腎生検にて診断し、治療はステロイドやシクロホスファミド、プラズマ交換療法
  • 抗糸球体基底膜抗体型糸球体腎炎(Goodpasture症候群)・・・急速進行性糸球体腎炎を呈する疾患のうち、抗糸球体基底膜抗体が陽性となる疾患。肺にも肺胞出血を呈することがある。腎機能は急激に悪化し、短期間に末期腎不全に至ることが多い。
  • 紫斑病性腎炎・・・IgA血管炎の腎障害で、血尿、蛋白尿を伴う。IgA血管炎の症状は、紫斑が必ず出現し、腹痛や関節痛を伴うことがあります。診断には腎生検が必要です。組織所見として、IgA腎症と同様の所見を呈します。ステロイド剤を使用することが多いです。
  • コレステロール塞栓症・・・動脈硬化が強い症例で、血管内カテーテルの操作や血管手術により、動脈壁にあるプラークの成分であるコレステロール結晶がはがれ、末梢の小動脈に塞栓症を引き起こす病態です。腎臓に障害がきますと、腎機能が比較的急速に悪化することがあります。抗凝固療法の中止を行う場合もあります。状況によりステロイド剤を使用する場合もあります。
  • IgG4関連腎臓病・・・IgG4関連疾患に伴い発症する腎障害です。尿細管間質にIgG4陽性の形質細胞が著明に浸潤し、特徴的な線維化を起こします。比較的高齢者に多く、ステロイド剤が著効することが多いです。
  • 微小変化病・・・特に子供に多く、ネフローゼ症候群の主な原因となります。光顕鏡で腎組織を見ても異常は見られないことが特徴で、電子顕微鏡での検査でのみ腎臓の細胞内での異常が確認できます。治療としては、ステロイドが一般的に使用される。

高血圧全般

CKD患者への降圧目標はステージによらず以下。75歳以上の高血圧を伴うCKD患者にはCKD進展及び発症抑制のため診察室血圧150/90mmHg未満が推奨される。

75歳未満 75歳以上
糖尿病(-) 蛋白尿(-) 140/90mmHg未満 150/90mmHg未満
蛋白尿(+) 130/80mmHg未満
糖尿病(+)
  • ※尿蛋白(-)はA1区分で、尿蛋白(+)はA2,A3区分

降圧剤の選択についてはステージよらず以下(ただしステージG4、G5の75歳以上は75歳未満と同じではなく、Ca拮抗薬が推奨→降圧不十分な場合は副作用に十分注意しながらACE阻害、ARB、利尿薬を併用する))

75歳未満 75歳以上
蛋白尿(+) 蛋白尿(-)
第一選択薬 ACE阻害薬、ARB ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、サイアザイド系利尿薬(体液貯留)から選択 75歳未満と同じ
第二選択薬(併用薬) Ca拮抗薬(CVDハイリスク)
サイアザイド利尿薬(体液貯留)
  • 降圧薬の選択は、DMの有無にかかわらず、蛋白尿の有無を参考に検討する
  • 蛋白尿(+)の第三選択薬として、利尿薬またはCa拮抗薬を考慮する。
  • 蛋白尿(-)の第二選択薬は、ACE阻害薬とARBの併用を除く2剤または3剤を組み合わせる

高血圧・CVD(心不全

  • ACE阻害薬/ARB・・・G4、G5においても使用を提案するが、薬物療法開始初期にeGFRが低下することが知られているため、腎機能低下(eGFR30%以上低下は紹介)やアルドステロン拮抗による高カリウム血症に十分留意する。RA系阻害薬は腎血流が低下してレニン分泌が亢進することで血圧が上がることを抑え、腎保護に働く。
  • β遮断薬・・・心不全の生命予後に関してエビデンスのあるのはカルベジロール、ビソプロロール、メトプロロールの3種類のみで、ビソプロロールの消失経路として肝代謝・腎排泄ともに重要であり、腎機能高度低下例では使用量に注意する。腎保護効果に関してはいずれのβ遮断薬でも有用なエビデンスはない。
  • MRA・・・高カリウム血症のリスクを勘案するとG4,G5ではMRA使用の有益性は明らかではない。益と害のバランスを考慮して使用を判断する
  • SGLT2阻害薬・・・DMの有無に関わらず有益な効果が示されている。eGFR20mL/分/1.73㎡以下でのエビデンスがないので、G4までの患者を中心に積極的に使用。こちらも初期にeGFRが低下することが知られている。
  • ARNI・・・心不全患者に対するエビデンスは言わずもがな。G4,G5に関してはわからないがARNIの腎保護作用の可能性に対しては報告されているため、ARBと同様に腎機能低下や高カリウム血症に注意して使用
  • イバブラジン・・・G4,G5の心不全に対するイバブラジンの有用性は不明。消失経路は8割が肝臓、2割が腎臓であるので腎不全患者でも使用は可能である。

高血圧・腎硬化症・腎動脈狭窄症

  • ACE阻害薬/ARB・・・片側性腎動脈狭窄を伴うCKDに対し、RA系阻害薬は他の抗活躍に比して末期腎不全への進展及び死亡リスクを抑制する可能性があり推奨。AKI発症リスクがあるため少量より開始し血清CrとK値を確認しつつ注意深く用量を調節する。ただし両側性腎動脈狭窄が疑われる際は使用しない。
  • 血行再建術は、腎障害進行抑制やCVD発症、死亡のリスクを減少させないため、一般的にはおこわないが、治療抵抗性高血圧などを伴う場合には考慮してもよい。
  • 腎動脈エコーを行い、次のステップとしてMRアンギオグラフィを行う。

糖尿病性腎臓病(DKD)

DKDは典型的な糖尿病性腎症に加え、顕性アルブミン尿を伴わないままeGFRが低下する非典型的な糖尿病関連腎疾患を含む概念である。

  • 利尿薬
    • サイアザイド系・・・十分なエビデンスがなく推奨されない
    • ループ利尿薬・・・体液過剰が示唆される場合にのみ使用を提案。心不全を合併する場合はサムスカの有用性。
    • MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)・・・尿アルブミンの改善を示す可能性があるため使用を勘案。腎保護に作用するかは不明。セララは高血圧と慢性心不全の適応、ミネブロは高血圧の適応のみ、ケレンディアは2型糖尿病を合併する慢性腎臓病の適応。
      セララは微量アルブミン尿又は蛋白尿を伴うDM患者、及びCCr50mL/分未満の患者には禁忌、ミネブロは血清K値が5.0mEq/Lを超えた場合、eGFR30mL/分/1.73㎡未満が禁忌、ケレンディアは血清K値が5.5mEq/Lを超えた場合、eGFR25mL/分/1.73㎡未満ではリスクとベネフィットを考慮して慎重に投与。
  • 顕性アルブミン尿を呈するDKD患者には、目標値の目安としてHbA1c7.0未満が提案。ただし、腎機能低下例では赤血球寿命の短縮やエリスロポエチン製剤の影響でHbA1cが適切な血糖値を反映しない場合がある。
  • SGLT2阻害薬・・・腎機能が低下すると血糖降下作用は落ちるが、腎保護効果は維持されるため使用が推奨される。
    すなわち腎保護作用は独立した機序として尿細管糸球体フィードバック機構による糸球体過剰ろ過の適正化(輸入細動脈の拡張が是正)が指摘されている。
    薬物療法開始初期は糸球体内圧を低下させるためか、eGFRが低下するが、その後は安定した推移をたどることが知られているが、そのeGFR低下が3か月以内に30%以上であった場合は専門医療機関へ紹介。
    eGFR15ml/分/1.73㎡未満では新規に開始しない、継続投与して15mL/分/1.73㎡未満となった場合には、副作用に注意しながら継続する。
    糖尿病非合併のCKD患者に対するSGLT2阻害薬の投与は、タンパク尿を有する場合、腎機能進展抑制及びCVDイベントと死亡の発生抑制が期待されるため投与を推奨する。蛋白尿がなく、eGFR20mL/分/1.73㎡未満での開始についてはエビデンスなし。

腎臓病(AKIやCKD)の悪化で引き起こされる病態

ネフローゼ症候群

ネフローゼ症候群(nephrotic syndrome)は、特定の臨床的特徴を持つ状態であり、それ自体が独立した病態ですが、AKI(Acute Kidney Injury)やCKD(Chronic Kidney Disease)の一症状としても現れうる場合がある。

ネフローゼ症候群の主な診断基準として、次の4つがあります。

  • 大量のタンパク尿が尿中に排泄(一日に3.5グラム以上の尿タンパク)
  • 浮腫(体内の水分バランスの異常からくる、特に足や顔に見られる腫れ)
  • 脂質異常(血中VLDL、LDL、コレステロール、TGの上昇)・・・アルブミンの喪失により肝臓でアルブミン合成が亢進する時に脂質合成も同時に亢進する。またリポ蛋白リパーゼ活性が低下してVLDLやLDLの分解が減少し血中濃度が増加する。
  • 低アルブミン血症(血中のアルブミン濃度の低下。タンパク質尿の結果として起こる)

ネフローゼ症候群のうち、明らかな原因のないものを一次性に、原因を有するものを二次性に分類する。

  • 一次性ネフローゼ症候群の原疾患
    • 微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)・・・初期はステロイド単独、再発はステロイド+シクロスポリン。腎毒性に注意。
    • 巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)・・・初期は経口プレドニゾロン1㎎/kg/日で2~4週間継続。再発や依存例では免疫抑制薬、リツキシマブ。
    • 膜性腎症(MN)・・・保存的療法(生活指導、食事療法等)、ステロイド単独療法(プレドニゾロン0.6~0.8mg/kg/日を4週間投与)、ステロイド+免疫抑制薬(シクロスポリン、シクロフォスファミド、ミゾリビン)
  • 二次性ネフローゼ症候群の原因
    • 糖尿病性腎症
    • アミロイド腎症
    • HIV関連腎症

急速進行性腎炎症候群(RPGN)

腎炎を示す尿所見を伴い数週から数か月の経過で急速に腎不全が進行する症候群と定義される。

原因は様々で、以下が代表的な原疾患。

  • 抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連腎炎
  • 抗糸球体基底膜(GBM)腎炎
  • ループス腎炎

高カリウム血症

血清カリウムは、総死亡、CVDリスクを低下させる可能性があるため、血清K値4.0mEq/L以上、5.5mEq/L未満での管理が推奨される。

カリウム制限はG3bで2000mg/日以下、G4,G5は1500mg/日以下が目標値。

致死性不整脈を生じる可能性の高い血清K値6.0mEq/L以上(or急激に1.0mEq/L以上上昇し、4.5mEq/Lを超える場合)は緊急治療が必要。

高カリウム血症の治療としては、

  • カルシウム製剤・・・グルコン酸カルシウム静脈注射等。カリウムを減らすというわけではなく、緊急時に心筋の興奮を減少させ、高カリウムによる心臓への影響を減らす目的で使用される。
  • GI療法・・・ブドウ糖+インスリン。インスリンがブドウ糖を取り込む時にカリウムを取り込むことを利用する。
  • β2刺激薬の吸入・静注・・・サルブタモール吸入など。β2刺激薬はPKAの活性化により、血管拡張とは別に、特定のカリウムチャネルを活性化することで、カリウムイオンが細胞外から細胞内へ移動することが知られています。これにより、血中のカリウム濃度が一時的に低下することがある。逆にβ遮断薬は高カリウム血症のリスクを高める。
  • 陰イオン交換樹脂・・・ケイキサレート、ロケルマ等。腸内でカリウムと結合して、交換によりナトリウムやカルシウムを放出し、カリウムの排泄を促進する。薬価は高いがロケルマは他のポリマー陽イオン交換化合物よりもK+を選択的に取り込める(他はCa2+、Mg2+なども取り込む)ため併用薬による作用減弱がないこと、水分で膨張しないので消化器系の副作用が少ないことが特徴。
  • ループ利尿薬・・・ラシックス等。尿中へのカリウム排泄を増加させることで血中カリウムを減少させることが出来る。
  • 炭酸ナトリウム・・・高カリウム血症で、代謝性アシドーシスを伴う場合に使用。

腎性貧血

  • 腎性貧血は腎機能の悪化に伴うエリスロポエチンの産生低下が原因で起こる。
  • 腎性貧血の診断はフローチャートをもとに除外診断で診断する。
  • 保存期CKD患者の腎性貧血に対する赤血球造血刺激因子製剤(ESA)治療の目標値はHb10g/dL~13g/dL。
    13g/dLを超えるとCVDの発症リスクが増加。
  • 保存期CKD患者の鉄剤投与の目安としてTSAT<20%または血清フェリチン値<100ng/mLという基準がある。すなわち貧血を有するCKD患者に対して鉄欠乏状態があれば鉄剤投与が推奨される。
  • HIF-PH阻害薬では血栓塞栓症のリスクに対する注意喚起がされているが、既往歴の有無にかかわらずESA群と比較してリスクは同程度。

代謝性アシドーシス

近位尿細管ではNa+の再吸収と交換でH+が尿細管に分泌される。遠位尿細管ではNa+の再吸収と交換でNH4+が尿細管に分泌される。

腎機能が低下してNa+の再吸収が起きなければH+が血液中に蓄積して代謝性アシドーシスを引き起こす。他には乳酸アシドーシスやケトアシドーシスが代謝性アシドーシスとして知られている。

症状としては、早くて浅い呼吸、神経症状、心拍増加、悪心嘔吐などがある。

代謝性アシドーシスを伴う保存期CKD(G3~G5)において、炭酸水素ナトリウム(メイロン=重曹=ビカルボナート)などによる介入は腎機能低下を抑制する可能性があり、浮腫悪化(体液貯留の悪化)に注意しながら使用する。

改善しないと透析の適応となる。

アルカリ性食品(野菜や果物)は代謝性アシドーシスを有するCKD患者で推奨されている。ただし高カリウム血症の発症に十分留意する。

高リン血症、低カルシウム血症

生体内の貯蔵組織としては、リンは骨と細胞膜、DNA、カルシウムは骨に多く存在。

  • 腎機能が悪化→リンの排泄が低下して血中リン濃度の上昇。リン濃度の上昇は、血中カルシウムと結合してリン酸カルシウム(骨のヒドロキシアパタイトと同じ)となり、血管壁や心臓弁等に沈着して血管石灰化を招き、動脈硬化が進行して心血管疾患を引き起こすとともに二次性副甲状腺機能亢進症のリスク。またリン濃度の上昇は、リン利尿ホルモン(FGF-23)の分泌を促進し、FGF-23は腎臓でのビタミンDのかっせかを抑制する(リンの蓄積を防ぐフィードバック機構)
  • 腎機能の悪化→ビタミンDを活性型ビタミンD(1.25-ジヒドロキシビタミンD3)に変換する機能が低下して、活性型ビタミンD産生能が低下する。活性型ビタミンDは腸からのカルシウムとリンの吸収を促進するため、活性型ビタミンD3の低下は血中カルシウムとリンの濃度を低下させる(低カルシウム血症)
  • リンの増加とカルシウムの低下は副甲状腺ホルモン(PTH:パラソルモン)の分泌を促進する。PTHは破骨細胞を活性化して骨からカルシウムとリンの放出を促進して血中カルシウムとリンの濃度を上昇させる。PTHはまた、腎臓でのリンの再吸収を抑制し、リンの尿中排泄を促進する。(リンの放出<リンの排泄)のため、PTHは血中カルシウムは増加させるが、血中リン濃度は低下させる。
    リン カルシウム
    活性型VD3 ↑(吸収) ↑(吸収)
    PTH ↓(骨溶解<排泄) ↑(骨溶解)
  • 高リン血症を認める場合は、末期腎不全への進展リスクを抑える可能生があるため、P吸着薬の使用を提案する。P制限食については、生命予後に及ぼす効果は明らかではなかった。
  • 活性型ビタミンDが尿たんぱくを抑える(平均-16%)ことによる腎保護作用があるかは不明
  • 保存期CKD患者に対する高リン血症に対する治療において、Ca非含有P吸着薬はCa含有P吸着薬に比べて、死亡、末期腎不全のリスクや血管石灰化の進行を軽減する可能性があることから提案される。
  • Ca含有P吸着薬は、血中リン濃度が高い状態で使用すると、血中カルシウム濃度を上昇によりカルシウムとリンが結合して血管や他の組織の石灰化のリスクが増加する。血中カルシウム濃度の上昇は通常であればPTHの分泌を抑制するが、活性型ビタミンD3が不足している腎不全の患者では低カルシウム血症で常にPTH分泌が刺激されており、Ca含有P吸着薬の一過性のカルシウム上昇のPTH分泌抑制は結果的に打ち消される。
  • 結果、リンとカルシウム、PTHのバランスが重要ということ。基本的にはリンが高い場合はCa非含有P吸着薬、カルシウムが低い場合は活性型ビタミンD製剤を使用する感じ

薬物療法について

P>Ca>PTHの順に優先順位を決めて管理目標値内に維持することが推奨されている。

血中リン値が高い場合は、リン吸着薬が使用される。リン吸着薬は食品由来のリンを吸着するため、食事の前後に服用する。

  • 炭酸カルシウム製剤(カルタン、沈降炭酸カルシウム)・・・食直後服用。保存期CKDにも使用可。
  • セベラマー塩酸塩(レナジェル、フォスブロック)・・・食直前服用。透析患者のみ。カルシウム非含有。
  • 炭酸ランタン(ホスレノール)・・・食直後服用。保存期CKDにも使用可。カルシウム非含有の金属製剤。
  • ビキサロマー(キックリン)・・・食直前服用。透析患者のみ。カルシウムや金属を含まないポリマー製剤
  • クエン酸第二鉄水和物(リオナ)・・・食直後服用。保存期CKDにも使用可。カルシウム非含有の金属製剤

血中PTHが高値で、PまたはCaが正常ないし低値であれば、活性型ビタミンD製剤投与が考慮される。活性型VD3はPをあげるので、Pが高値の場合は使用しない。

  • アルファカルシドール(ワンアルファ、アルファロール)
  • カルシトリオール(ロカルトロール)
  • ファレカルシトリオール(ホーネル、フルスタン)
  • マキサカルシトール(オキサロール)
  • エルデカルシトール

血中PTHが高値で、PまたはCaが正常ないし高値であれば、シナカルセトを使用する。シナカルセトはカルシウム受容体に作動し、主としてPTH分泌を抑制することで、血清PTH濃度を低下させる。

  • シナカルセト塩酸塩(レグパラ)

尿毒症

尿毒症は一般的には腎不全、特に末期腎不全の患者に診られる。

尿毒症は体内の毒素(尿素、尿酸、アンモニア、クレアチニン、β2ミクログロブリン、リン、マグネシウム等の電解質、インドール、グアニジン、フェニル酢酸等)が排泄できずに、神経症状、かゆみ、吐き気、心血管障害、けいれん等様々な症状を引き起こす。

診断はそういった症状に加えて血液検査(クレアチニン、BUN、電解質)、尿検査(尿蛋白等)、画像診断、腎生検による評価を通じて行う。

これらの毒素が心膜に炎症を起こすことで引き起こされるのが尿毒症性心膜炎である。治療は血液透析、ステロイド。

クレメジン(球形吸着炭)・・・食間服用。消化管内の尿毒症の毒素を吸着し便として排泄。CKD患者への投与による末期腎不全への進展や死亡の抑制効果は明確ではないが、腎機能低下速度を遅延させる可能性がある=適応も進行性の保存期CKDで血清クレアチニン(S-Cr)の上昇の割合が中等度以上(1ヵ月当りの1/S-Crの変化が0.01dL/mg以上)であることが必要。

乏尿(肺水腫、体重増加、末梢浮腫、心不全)

肺水腫(乏尿による排尿障害)→酸素、血管拡張薬(硝酸薬)、強心薬、利尿薬(ラシックス)で改善しないなら透析

RRT(血液透析、腹膜透析、腎移植)

  • 血液透析(ヘモダイアリシス)は濃度の違いを利用してろ過するため、小さいものをろ過できる。週3回、1日4時間通院、通院週3回
  • 血液ろ過は圧力をかけてろ過するので大きいものをろ過できるが、血液の水分が減るので水分を補充する必要がある。
  • 腹膜透析は腹膜を自然の透析膜として使用して、血液中の余分な水分や老廃物を排除する治療方法で、週3-4回、透析液交換(20分)、通院月1-2回で済むものの、長期間腹膜透析を行うことで、腹膜の厚みの増加、血管新生、繊維化、腹膜透過性の変化等が起こるためいずれ透析に移行します。
  • 高齢CKD患者や糖尿病性腎臓病の腎代替療法として透析と比較して腎移植を行う事が提案される。ただし、移植後早期死亡リスクが低いと予想される高齢患者に限定。

腎臓病(AKIやCKD)患者の生活習慣

  • 禁煙・・・推奨
  • 飲酒・・・節度ある飲酒(1日20g程度のアルコール摂取)
  • コーヒー・・・CKD進展抑制効果があるため推奨
  • 飲水・・・保存期CKD患者のG4,G5において1日1~1.5Lで末梢じん不全のリスクが最も少ない
  • 運動・・・肥満を伴わない保存期CKD患者において、日常的な運動はタンパク尿増加をもたらすことはなく、腎機能や身体的QOLの改善をもたらす可能性があるため推奨
  • タンパク質・・・ステージG3a(0.8~1.0g/kg標準体重/日)、ステージG3b移行(0.6g~0.8g/kg標準体重/日)。0.1g/kg/日のタンパク質減少がGFRの0.14上昇と関連
  • 塩分・・・3~6g/日以下。1日食塩摂取量4.2g減少ごとに収縮期/拡張期血圧は6.1/3.5mmHg低下し、1日食塩摂取量4.8g減少ごとに尿蛋白は34%、アルブミン尿は36%減少。

(参考・引用元:日経DI 2015.12、日本腎臓学会、CKDガイドライン2023、腎機能低下時に最も中の必要な薬剤投与量一覧(日本腎臓病薬物療法学会)、クレデンシャル2014.10、高リン血症(https://www.ne.jp/asahi/akira/imakura/hyperphosphatemia.htm))

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