糖尿病の治療薬

糖尿病について

糖尿病の病態については別ページ参照。

一般的なHbA1c目標値

血糖値正常化を目指す際の目標 合併症予防のための目標 治療強化が困難な歳の目標
HbA1c:6.0%未満 HbA1c:7.0%未満 HbA1c:8.0%未満

高齢者のHbA1c目標値

(日本糖尿病学会より)
  • 注1: 認知機能や基本的ADL(着衣、移動、入浴、トイレの使用など)、手段的ADL(IADL:買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)の評価に関しては、 日本老年医学会のホームページ ( https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/ ) を参照する。エンドオブライフの状態では、著しい高血糖を防止し、それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する。
  • 注2: 高齢者糖尿病においても、合併症予防のための目標は7.0%未満である。ただし、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満、治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とする。下限を設けない。カテゴリーIIIに該当する状態で、多剤併用による有害作用が懸念される場合や、重篤な併存疾患を有し、社会的サポートが乏しい場合などには、8.5%未満を目標とすることも許容される。
  • 注3: 糖尿病罹病期間も考慮し、合併症発症・進展阻止が優先される場合には、重症低血糖を予防する対策を講じつつ、個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい。 65歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり、かつ血糖コントロール状態が図の目標や下限を下回る場合には、基本的に現状を維持するが、重症低血糖に十分注意する。グリニド薬は、種類・使用量・血糖値等を勘案し、重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もある。

糖尿病の薬の種類

糖尿病の薬の使い方

  1. 1型糖尿病、糖尿病昏睡、重篤な肝障害・腎障害・感染症、妊娠はインスリン製剤一択
  2. 食事・運動療法で効果が見られないor効果が見られても診断基準を大きく上回っている場合薬物療法へ
  3. ベースは、ビグアナイドが第一選択、そしてDPP4、インスリン、チアゾリジン、ダメならSU剤。
  4. DPP4阻害薬とGLP-1作動薬の併用、グリニドとSU剤との併用は保険出来られるので注意する。
  5. 肥満(BMI25以上)か非肥満かに分類する。(BMI:体重kg/身長m*身長m)
  6. 肥満(インスリン抵抗性)の人には、第一選択としてビグアナイド(メトホルミン)かチアゾリジン(アクトス)。膀胱がんを気にするならビグアナイド
  7. 非肥満の人には、ビグアナイド(メトホルミン)が第一選択。ただし、75歳以上の高齢者や腎機能が弱い人にはDPP4阻害薬が推奨される。
  8. 食後2h血糖値が高い場合は、αGIかグリニド製剤が第一選択
  9. SU剤は、上記3パターンのうちで、非肥満、A1cがすごく高値、メトホルミンが使用できない場合に限定して使用すると良い(SU剤は最初の2年は下がるがその後は上がる=一時的な効果しか持たないため)。SU剤でないと効かない人は全体の1割程度。
  10. SUは朝飲むと次の日の夜間に低血糖(寝ている間に低血糖になっている)が起きることが多い(CGM:持続血糖測定器にて)。そのため、SU剤投与でA1cが下がっていたとしても低血糖時を含めた変動幅が多い血糖コントロールであることが多いため注意する。A1cを漠然と下げることよりも、血糖の変動幅を狭くする(上は180~200、下は70以上。70未満は低血糖症状出る。)ことに重点を置く。低血糖の起きているA1c6.5%と低血糖が起きていない7.0%なら、心血管イベントの発生率は前者のほうが高い。低血糖の抑制は心血管イベントの抑制につながり、認知症の予防にもつながるため、A1cを低くしすぎても低血糖になるのはダメ。CGMを用いずに夜間低血糖が起きているかどうかを知るには体重が増加してA1cが下がっているのであれば注意ということ。
  11. A1cの治療目標三段階の6%未満は低血糖が起きていないこと人だけが目指せる基準。A1c8%以上の人の低血糖発現率は5%未満だが、8%以下になると50%以上の人が低血糖を起こしている。
  12. SU剤は、虚血プレコンディショニングとEpac2刺激の観点から、グリミクロンとアマリールが勧められている(ほかは非推奨)。
  13. 薬物治療でもHbAicが8%~10%以上になってしまっている場合にインスリンの適応となる。8%台あたりから使用したほうが予後が良い。

低血糖とその対処法

低血糖とは

低血糖とは、発汗や手指のふるえ・不安感などの不快な症状が突然現れることをいいます。

糖質の90%は脳で使われるということからも、低血糖になると、脳の働きが鈍くなり、めまいとして症状がでることもあります。

低血糖の症状

正常では、血糖値は常に70mg/dL以上に維持されており、低血糖は50~60mg/dL以下の状態をいう。

血糖値が80mg/dL付近まで低下すると膵からのインスリン分泌は減少し、70mg/dL付近まで低下してくるとインスリン拮抗ホルモンであるカテコールアミン、グルカゴン、コルチゾールなどが分泌され、血糖が低下しないように作用する。

この際、カテコールアミン分泌により動悸、冷汗、振戦、高度の空腹などの自律神経症状が出現し、脱力感、思考力の低下、錯乱などの中枢神経系症状は脳神経のブドウ糖の欠乏によって起こる。

血糖値が50mg/dLいかに低下すると、脳内のブドウ糖が枯渇し、頭痛、集中力の低下、カスミ目等の中枢神経症状がでる。

血糖値30mg/dL以下になると意識レベルが低下し、昏睡へと進行し、低体温、けいれんをきたす。昏睡に陥って4時間以上経過すると脳浮腫をきたし、死に至ったり、回復しても脳機能障害を残す可能性があるため、高血糖よりもむしろ危険である。

重症低血糖が起こった場合、心血管リスクが2.05倍に上がると言われる。→とにかく低血糖を起こさないようにすることが大切。SU剤は下を下げるのでA1cは下がるが、低血糖のリスクが高まるので推奨されない。

低血糖の原因

原因としては、

  • 食事量が少ない、食事時間が遅れる、決められた捕食を摂らなかったなど食事によるもの
  • 運動量・労働量が多すぎる、長時間の強い運動
  • インスリン製剤・糖尿病薬の増量、服用時間の変更、併用薬剤によるもの
  • 飲酒(特に空腹時に糖質を摂らずに飲酒)、月経開始時(ホルモンバランスの変化)

などがあります。

参考:アルコールについて

低血糖の時間帯

低血糖の時間帯としては、空腹時、食前、長時間の強い運動中(直後)など

低血糖の対処法

ブドウ糖(5~10g)又は砂糖(10~20g)やこれらを含む飲料を摂取する

ただし、αグルコシダーゼ阻害薬を服用している場合は砂糖でなくブドウ糖を摂取する。

アイスクリーム、チョコレート、キャラメル、飴などは消化吸収や溶けるまでに時間がかかるため緊急用には適さない。

予測できる時はあらかじめ、1~2単位(1単位=80kcal)程度の捕食を摂取する。ブドウ糖1gで血糖値が5くらい上がる。

ブドウ糖の種類

ブドウ糖の種類には無償提供品と市販品があります。

無償提供はほぼ全てのαグルコシダーゼ阻害薬販売会社で提供されています。

形状 会社名 ブドウ糖量 備考
粉末 三和化学、武田薬品、バイエル薬品など 10g/包 1包10g
錠剤 武田薬品 2.5g/個 1包2個入、噛むと崩れて溶ける
液体 大洋薬品 5g/包 1包10ml

市販品のものもあります。

形状 製品名 会社名 ブドウ糖量 備考
錠剤 グルコースサプライオーツカ 大塚製薬 4.5g/個 ラムネ風味
トラウベンツッカー 藤田 約2.5g/粒 各種フルーツ味
ゼリー グルコベスキュー マークレイ マーケティング 10g/包 ヨーグルト味

とはいえ、ブドウ糖が入っていればよいので、ブドウ糖10g相当量を含む飲料水を摂取するという手もあります。

具体的には、リポビタミンD(1本半)、オロナミンC(1本半)、コカコーラ(250ml)などで代用可能です。

食後高血糖

  • 食後高血糖 → 炎症性サイトカイン増加・酸化ストレス → 血管内皮障害
  • 酸化ストレス → JNK → β細胞数↓(アポトーシス)
  • 酸化ストレス→c-jun活性化 → Fox-1、MafA↓ → インスリン↓
  • 食後高血糖は、認知症やガンを引き起こす。

シックデイの対処法

シックデイとは

シックデイとは、糖尿病患者が糖尿病治療中に他の病気(発熱、下痢、嘔吐等)にかかったときに、ストレスによるステロイドホルモンの分泌が亢進し、血糖値の上昇が起こる状態のこと。

下痢、嘔吐による水分喪失、嘔気による水分補給不足、発熱による脱水や感染、外傷、手術などのストレスも高血糖の原因となる。また、逆にストレスがそれ程でもないときに、食欲不振などで摂取エネルギーが低い状態で普段と同一量のインスリン投与を行うと低血糖を引き起こすこともある。

シックデイの対応

  1. シックデイのときには主治医に連絡し指示を受けるよう平素より患者に指導する。インスリン治療中の患者は、食事がとれていなくても自己判断でインスリン注射を中断してはならない。発熱、消化器症状が強いときは必ず医療機関を受診するよう指導する
  2. 十分な水分の摂取により脱水を防ぐように指示する(来院した患者には点滴注射にて生理食塩水 1Lから1.5L/日を補給する)。
  3. 食欲のないときは、日頃食べ慣れていて口当たりがよく消化のよい食物(たとえば、おかゆ、ジュース、アイスクリームなど)を選び、できるだけ摂取するように指示する(絶食しないようにする)。特に糖質と水の摂取を優先する。
  4. 自己測定により血糖値の動きを3~4時間に1回ずつ測定し、血糖値200mg/dLを超えてさらに上昇の傾向がみられたら、その都度、速効型または超速効型インスリンを2~4単位追加するように指示する。
  5. 来院時には必ず尿中ケトン体の測定を行う。
糖尿病薬 食事量(通常量に比べて) 理由
2/3以上 1/2程度 1/3以下
SU剤 通常量 半量 中止 低血糖
グリニド 通常量 半量 中止 低血糖
αGI 中止 中止 中止 腹部症状
ビグアナイド 中止 中止 中止 脱水に禁忌
チアゾリジン 通常量 中止が可能 中止が可能 中止しても効果は持続中
DPP-4阻害薬 通常量 中止が可能 中止が可能 食事してなければ効果がない
SGLT2阻害薬 中止 中止 中止 脱水、アシドーシス
GLP-1作動薬 中止 中止 中止 胃腸障害のリスク↑

入院を考慮して早急に対処が必要なとき

  1. 高熱が1~2日以上続くとき
  2. 嘔吐や下痢が続き、食事摂取が困難なとき
  3. 高血糖(350mg/dL以下にならない)や尿中ケトン体陽性が続くとき
  4. 高血糖に伴う症状(口渇、多飲、多尿、急激な体重減少、意識障害)があるとき
  5. 脱水、尿量減少があるとき

糖尿病に関係するホルモン

DPP4阻害薬はインスリンの分泌を促進する作用よりもグルカゴン分泌を抑える作用のほうが重要。インスリンもグルカゴンも働かなければ血糖値は正常である。

インスリン グルカゴン 血糖
× やや低下
× 高血糖
× × 正常

グルカゴン

低血糖、交感神経刺激、アミノ酸、コレシストキニンにより上昇するホルモンで、膵A細胞より産生される。インスリン、ソマトスタチンで抑制される。

グルカゴン受容体はG蛋白共役型受容体であり、グルカゴンが結合すると、αβγの三量体から成る三量体Gタンパク質のαサブユニットのGDPがGTPに置き換わることで、活性化されたαサブユニットによりアデニル酸シクラーゼが活性化→ATPをcAMPに変えてプロテインキナーゼAを活性化する。

グルカゴンが共役しているG蛋白のαサブユニットはGsである。αサブユニットには他20種類のファミリーがいて、GiはAC抑制、GqはPLC活性化である。

グリコーゲン分解を促進(グリコーゲンホスホリラーゼの活性化)、グリコーゲンの合成を抑制することでグルコース1リン酸を産生する。

ホルモン感受性リパーゼを活性化→脂肪分解→グリセロール+脂肪酸。グリセロールは肝臓に移動し糖新生の基質となる。これにより体重は減少するが血糖やエネルギーが生み出される。

※(グリコーゲンは余分な糖分が肝臓や筋肉に蓄えられたものであり、でんぷんの枝分かれをさらに多くしたもの)

インスリン

高血糖により上昇するホルモンで膵B細胞から分泌される。

標的細胞(主に骨格筋と脂肪細胞)のGULT4を活性化してグルコースを細胞内に取り込み、

  • アミノ酸、グリセロール、乳酸からの糖新生の抑制(グルコース-6-ホスファターゼの阻害、ピルビン酸カルボキシラーゼの阻害、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ=PEPCKの阻害)→糖の代謝を高め血糖値を下げる。
  • PDEを阻害→PKA(Aキナーゼ)を阻害→ホルモン感受性リパーゼの抑制によりTGの分解による間接的な血糖値の上昇を抑える。
  • PKAの阻害作用は、PP-1(タンパク質ホスファターゼ1)の活性化とともにグリコーゲンの分解を抑制する。一方でグリコーゲンシンターゼを活性化して総合的にはグリコーゲンの合成を高める。
  • アセチルCoAカルボキシラーゼを活性化するのでアセチルCoAからの脂肪酸の合成が高まる。
  • グルコースの取り込み促進により、褐色脂肪細胞(肩甲骨や脇の下等一部の組織のみ)ではATPを産生し熱産生にかかわり、白色脂肪細胞ではミトコンドリアは退化しているため、ATP産生は行わず、取り込んだグルコースからグリセロール-3-リン酸を合成(脂肪細胞にはグリセロールをグリセロール-3-リン酸にするグリセロキナーゼ活性がないため)して脂肪酸と結合させて中性脂肪を作ってため込む。
  • インスリンはグルコースとともにカリウムを細胞に取り込むので、血中カリウム濃度を下げる効果がある。高カリウム血症の治療目的にインスリンを使用すると低血糖に陥るので、グルコースとともに投与する(GI療法)。

等の作用を示すため、血糖値は下がるが、TGが上昇し、体重が増加しやすい側面を持つ。

インスリン分泌のメカニズム

(上図:調剤と情報より一部改変)
  1. グルコースが膵β細胞のGULT2(グルコース輸送体)という酵素を活性化する。(GULT2はインスリン非依存)
  2. 解糖系の一連の流れが進行し、ATPが産生される。ATPはK+チャネルを閉口する。
  3. 閉口により生じた脱分極によって、Caチャネルが開口し、Ca2+の流入が起こる
  4. Ca2+によりインスリンが血中に遊離され、肝臓、筋肉細胞(骨格筋、心筋等)や脂肪細胞のチロシンキナーゼ型インスリン受容体に結合すると二量体を形成し自身(α2β2ヘテロ4量体であり、βサブユニットにチロシンキナーゼドメインを持つ)がリン酸化され、そこにアダプタータンパク質のIRS-1やIRS-2が結合、それらのチロシンがリン酸化を受けることが起点。そこからPI3KによるPDK-1の活性化→Akt(PKB)の活性化→タンパク合成、糖質代謝、グリコーゲンの合成、GULT4の細胞膜への移動(トランスロケーション)によるグルコースの取り込み促進に関わる経路と、Grb2/SOS→Rasを介したMAPKカスケードの進行からの細胞増殖に関わる経路に分岐する。

また、上記とは別経路でインスリン分泌が促される機序が以下。(インクレチンとSU剤の副経路)

  1. インクレチン(GIP、GLP-1)は、cAMPを活性化して、PKA(Aキナーゼ)非依存的に、SU受容体と複合体を形成しているEpac2(cAMP-GEF2)というcAMP結合タンパク質を活性化し、Epac2は低分子G蛋白であるRap1を非活性型(GDP)から活性型(GTP)に変換する。
  2. 活性型Rap1から始まるカスケードが進行し、インスリンの分泌が促進される。

インスリンが機能しないと、インスリン非依存の膵β細胞へのGULT2を介したグルコースの取り込みや脳へのグルコース取り込みは通常通り行われるものの、インスリンに依存している標的細胞へのGLUT4を介したグルコースの取り込みが正常に行われなくなる。

標的細胞内のグルコース不足にてミトコンドリアのTCA回路が回らず、ATPが合成できなくなり、K+チャネルを閉口できなくなる。

糖新生がインスリンにより抑制されていないため、糖新生によるグルコースの生成が同時に行われ、グルコースが蓄積し、血糖値がさらに上昇する。ATPの不足分を補うために脂肪分解が促進する。

グリコーゲンを合成する時、血清K+を細胞内に取り込む作用も持つ。 →高カリウム血症の治療

インスリンはAキナーゼやCキナーゼを活性化しないためリン酸化できないと思うが、チロシンキナーゼ受容体それ自体がリン酸化酵素として働くため大丈夫。

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