抗原提示

マクロファージやB細胞、樹状細胞がMHC分子と抗原をT細胞へ受け渡すところです。

マクロファージやB細胞表面にあるMHC分子(人のMHC=HLA)には3つのサブタイプがありますが、抗原提示に関与しているのはクラスⅠとクラスⅡの二つでした。

クラスⅠはほとんどすべての細胞に発現していますが、クラスⅡは限られた細胞にしか発現していません。

なお、マクロファージの場合は、INF-α,β,γ、TNF-αらによりクラスⅠの発現が、INF-γによりクラスⅡの発現が上昇し、IL-10によりクラス Ⅱ発現が抑制される。

IL-10はTh1,Th2サイトカインを抑制INF-γはTh2への分化を抑制(Th1とTh2のバランスの調整)。

B細胞の場合は、IL-4によってクラスⅡ発現が上昇し、INF-γにより抑制される。

MHCクラスⅠ分子はキラーT細胞CD8抗原により認識されるのだが、ヘルパーT細胞からの誘導なくしては活性化しない。

各細胞内の不要なタンパク質がプロテアソームによりペプチド→アミノ酸まで分解されて、再び新しいタンパク質の生合成に利用される サイクルとは別に、一部のペプチド(細胞構成タンパク質由来ペプチド) はアミノ酸まで分解されずにTAPトランスポーターと呼ばれる運搬分子によって小胞体に運び込まれる。

小胞体内で作られているMHCクラスⅠ分子は、小胞体にて先のペプチドを結合し、細胞表面まで運び、外部に向かって提示する。 (これは、細胞内に存在するタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を知るのにも有用である。)

このMHCクラスⅠ+ペプチドを認識する細胞としては、キラーT細胞(CD8+)が最も適しています。

キラーT細胞はMHCクラスⅠ分子によって提示されるペプチド断片が自己であれば攻撃しませんが、非自己であれば細胞ごと破壊します。

一方、MHCクラスⅡ分子はマクロファージや樹状細胞などの特定の細胞にのみ発現していて、ヘルパーT細胞(CD4+)に 対する抗原提示に関与している。

MHCクラスⅡ分子を持つ細胞達は、一般にエンドサイトーシスにより抗原を自細胞の中に取り込み、エンドソームと呼ばれる膜に囲まれた小胞の中でリソソーム酵素によってペプチドまで分解するが、ここで生成したペプチドがTAPトランスポーターを介して小胞体へ移動すると、これらの貪食細胞が破壊されてしまい、感染が拡大することになる。

そこで、クラスⅡによる抗原提示はTAPトランスポーターによる輸送系には入らず、細胞外から取り込んだタンパク質由来のペプチドを含むリソソームとMHCクラスⅡ分子を運ぶ輸送小胞とが融合し、インバリアント鎖が外れることによって両者は結合→細胞表面まで運ばれる。

細胞表面まで運ばれた、 MHCクラスⅡ分子はヘルパーT細胞のCD4抗原によって、MHC分子と一緒に渡される抗原はT細胞表面にあるTCRに よって認識される。つまり、CD4-MHCクラスⅡ、外部抗原-TCRの関係で認識される。

外部抗原-TCRにおける抗原は多種多様なため、TCR内の遺伝子はそのつど再構築される。

T細胞による抗原の認識にはもうひとつシグナルが必要で、それを共刺激シグナルと呼ぶ。

抗原提示細胞上のB7(CD80、86)分子とT細胞上にあるCD28分子ICAM-1とLFA-1CD40とCD40LVCAM-1とVLA-4などの抗原非特異的接着分子 が互いに認識しあうことで、抗原を提示できる(ハロー86にはニーハオ28で答える)。

まとめると、抗原を提示するときにT細胞と抗原提示細胞の間でやり取りされるシグナルは、

<抗原提示細胞上><T細胞上>
MHCクラスⅡCD4
外部抗原TCR及びCD3
B7(CD80、86)などCD28など
抗原提示のメカニズム

と言った具合。キラーT細胞は、MHCクラスⅠとCD8、外部抗原とTCR。この3つのうちどれが欠けてもアナジー(不応答)を起こす。

マクロファージ、樹状細胞らによる抗原提示が済むと、非受容体型PTKのLck活性化に引き続いて、同じく非受容体型PTKのZAP70が活性化します。

TCRはチロシンキナーゼ型受容体ではないので、2量体を形成して自身をリン酸化できません。そのため、TCRと複合体を形成しているCD3のITAMとよばれるチロシン残基を含むアミノ酸配列を他のアダプター分子等でリン酸化しなければなりません。

そこで、非受容体型PTKのSrcファミリーに属するLckが、チロシン残基のリン酸化を担い、そのリン酸基にSykファミリーに属するZAP70が結合し、Lckからリン酸化を受け活性化し、ZAP70はドッキングタンパク質のLATを介して、SH2ドメインを持つGrb2とPLCγを活性化します。

PLCγは自身のSH2で結合する以外にもPI3Kの下流でも活性化され、PIP2をIP3(イノシトール3リン酸)とDAG(ジアシルグリセロール)に分解することで、IP3は小胞体よりCa2+を遊離しカルシニューリンを活性化させ、カルシニューリンはNF-AT(nuclear factor of activated T cells)を脱リン酸化して活性化し、核内へ 移行して、がん原遺伝子であるc-fos、c-junを活性化し、これらをもとにタンパク質(Fos、Jun)が合成される。

がんタンパク質JunとFosはロイソンジッパーにより複合体(AP-1)を形成する。

活性化されたAP-1(activating protein-1:JunとFosの複合体)は、サイトカイン遺伝子のプロモーターに結合してIL-2等サイトカインの転写を促進する。

また、AP-1は、Aキナーゼに応答するcAMP応答配列(CRE)に結合する転写制御因子CREB(cAMP responsive element bind-ing protein)と結合して転写を促進するが、リン酸化されたCREBは、CREBの転写共役因子であるCBP(CREB-binding protein)を獲得し、さらに転写を促進する。

CREBの応答配列CREはAP-1結合部位の上流に位置している。

DAGはPKC(プロテインキナーゼC)を活性化して、PKCがRasやRaf-1を活性化することで、MAPKカスケードを進行させ、AP-1のリン酸化及び、NF-κBとIκB(inhibitor-κB)を解離させてNF-κBを遊離させる。NF-κBは核内に入りサイトカインを誘導する。

さらに、CREBはBcl-2の活性化によって、NF-κBはc-IAP1、Bcl-XLなどの遺伝子発現によりアポトーシスを抑制し、生存を促進する。

Grb2はSOS→Ras→Raf-1と進んでMAPKカスケードを進行させる。

これにより、マクロファージがさらに活性化するのは言うまでもないが、それ以外に、B細胞上のIg(イムノグロブリンのクラススイッチが起こることが非常に重要である。

B細胞の分化を起こすためには、T細胞によるシグナル(IL-2)が必要である。

T細胞にはCD4+のTh1とTh2、CD8+のTc以外にも、いくつかのCD4+T細胞亜群(Th3、Th17、Tr1、NKT、Treg)が存在する。サプレッサーT細胞は制御性T細胞(Treg)に取って代わっている。

Th2細胞はIL-4、IL-13を出して抗体(免疫グロブリン=Ig)産生を誘導、肥満細胞の分化を促進、IL-5を出して好酸球、好塩基球の分化を促進、IL-6を出して血小板の分化を促進し、 Th1細胞はIL-2、IFN-γを産生するとともに細胞性免疫を活性化する。IL-6はキラーT細胞を活性化するが、Th1細胞が産生するなんらかのサイトカインもキラーT細胞を活性化する。

アレルギー疾患を考えるにはここも重要である。IgEへのクラススイッチの起こりやすさやTh2への傾きやすさなどの非MHC遺伝子によって、Th1よりTh2が優位になることでアレルギーが発現しやすい体質となるというのがひとつ。

また、T細胞に抗原提示する際、MHCが問題となることは先に述べたとおりであるが、人のMHC(HLA)には個体差(多型)があり、MHC型によって結合できるペプチド配列に偏りが生じる。ダニや花粉といった一部のアレルゲンに対してのみ免疫応答しやすいといった、アレルゲンとHLA型の相関のせいでアレルギーが発現しやすいというのもひとつである。

TCRのシグナル伝達(花粉等アレルゲン→T細胞受容体(TCR)→サイトカイン合成→作用発現のルート)をまとめると以下。こちらのサイトも詳しい)

  • 1.アレルゲンを抗原提示細胞(マクロファージ、ランゲルハンス細胞、樹状細胞)がT細胞に受け渡す(アレルゲン-TCR、MHCクラスⅡ-CD4、CD86-CD28)
  • 2.TCRと複合体形成のCD3分子のITAM(チロシン残基を2つ含むアミノ酸配列)が、非受容体型PTKのLckやFynによりリン酸化
  • 3.そのリン酸基に非受容体型PTKのJAKやZAP70がSH2ドメインを介して結合
    • PTK(protein tyrosine kinase)はチロシンキナーゼの略で、タンパク質のチロシンをリン酸化してシグナル伝達のON/OFFを切り替える酵素
    • 受容体型チロシンキナーゼ:増殖因子(成長因子)の受容体。2量体を形成しお互いをリン酸化する。
    • 非受容体型チロシンキナーゼ:代表はJAKやZAPといったPTKドメインを持つフリーのタンパク質で、サイトカイン受容体(JAK-STAT受容体)をリン酸化する。IL(インターロイキン)、造血因子などのサイトカインが結合し、それぞれのサイトカインの効能に関わる遺伝子の転写を促進する。
  • 4.ZAP70はドッキングタンパク質のLATを活性化、LATはPLCγ(ホスホリパーゼCγ)やGrb2を活性化
  • 5.PLCγはPIP2を、IP3とDAGに分解
  • 6.IP3はCaストアからのCa放出することで、カルモジュリンの抑制が外れカルシニューリンが活性化、転写因子NFATが脱リン酸化による核内移行→NFATがDNA上のIL-2プロモーターに結合して、IL-2mRNAの産生が亢進する
  • 7.DAGはPKC(プロテインキナーゼC)の活性化を介してRasやRafを活性化して、MAPKカスケードからのCREBの転写を促進するAP-1(Jun-Fos複合体)がリン酸化→核内へと移行しNFATやNF-κBらとともにサイトカイン(主としてIL-2)の合成を促進する。
  • 8.Grb2はRasの活性化によりMAPKの活性化→⑦と同様の経路
  • 9.作られたIL-2などのサイトカインはサイトカイン受容体に結合し、受容体とSTATが非受容体型PTKであるJAKによるリン酸化を受け、二量体を形成し、サイトカインに対応した転写因子を活性化する。JAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害すればリン酸化からのサイトカイン合成が進まなくなる(ここがコレクチムの作用点)。

増殖因子のシグナル伝達(PI3K/Akt経路)については別ページ(チロシンキナーゼ型受容体)にて。

TCRからのシグナル伝達では非受容体型PTKが、PIP2をIP3とDAGに分解するところからのシグナル伝達に対して、増殖因子のシグナル伝達では受容体型PTKからの、PI3KがPIP2をリン酸化してからのシグナル伝達。

CD4+T細胞の亜群についてもまとめると、

  • Th17はIL-17を産生し細胞傷害に関与
  • Treg(制御性T細胞)はTGF-βやIL-10を産生し免疫反応にフィードバックをかける
  • Tr1はIL-10を産生してTregと同じように免疫反応に抑制的に働く
  • NKT細胞はNK細胞マーカーを発現するT細胞であり、Th1サイトカインのIFN-γとTh2サイトカインのIL-4の両者 を産生し、かつ細胞障害活性も持つリンパ球

そして、亜群とTh1やTh2はエフェクターT細胞と呼ばれ、サイトカイン合成の役目を終えると一部はメモリーT細胞として残り、残りの大部分が死滅する。

メモリーT細胞には、接着因子であるケモカイン(CCR7)とLセレクチン(CD62L)陽性で主にリンパ節組織に存在するセントラルメモリーT細胞と、CCR7とCD62Lがともに陰性で主に細胞組織に存在するエフェクターメモリーT細胞の2つがあり、セントラルメモリーT細胞は必要に応じてエフェクターメモリーT細胞に分化して、その後Th1やTh2となって迅速な免疫反応を引き起こす。



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